「四本値(よんほんね)」という言葉から始めます。始値・高値・安値・終値の4つの価格をまとめて、こう呼びます。ローソク足は、この四本値をひとつの記号にまとめて株価の動きを示したもので、日本で広く使われているチャートの形式です。

「投資の時間」の用語解説でも、ローソク足は「株価の動き(始値・高値・安値・終値)を示した図」と一行で説明されています。

定義としてはこれで足ります。ただ私は、この一行に何が入っていて何が入っていないのかを軽く見たまま、講座で言い切ってしまったことがあります。今日はその失敗から入り、何を見落としていたのか、そして今はどういう順番でローソク足を見ているのかをお話しします。

講座で「この形は上がる」と言い切った日の話

私は証券会社の投資情報部に20年いて、その間テクニカル分析のセミナー講師も務めてきました。登壇は通算300回以上になりますが、今でもときどき思い出す回があります。

スクリーンにチャートを映し、ローソク足の形を指して「この形は上がります」と言い切ったのです。教科書で何度も見てきた形でしたから、説明しやすい答えのつもりでした。ところが翌週、その銘柄は私が話したのとは逆の方向に動きました。

外れたこと自体より、あとで振り返って「なぜ言い切れると思ったのか」を自分でうまく説明できなかったことのほうがこたえました。それ以来、講座で形を紹介するときは、うまくいかない例(反例)を一つ添えることにしています。

白状すると、自分の口座でも教科書通りに動かず損をした例は山ほどあります。講座での失敗は、それがたまたま人前で起きただけとも言えます。

当時の私が見落としていたことの見方

さて、いま振り返ると、当時の私が見落としていたのは大きく二つです。

陽線・陰線は「その1本の中」での比較

ローソク足では、終値が始値より高ければ陽線、終値が始値より安ければ陰線として区別します。ここがポイントです。この区別は、ひとつの期間の中で始値と終値を比べた結果です。前の足より上がったのか下がったのかは、陽線・陰線という区別そのものには含まれていません。

当時の私は、長い陽線を見ると「強い」、陰線を見ると「弱い」と、定義で決まっていることと自分の印象を一緒くたにしていました。形から受ける印象は解釈であって、四本値という記録とは別の層にあります。

パターンの説明は「可能性」の言葉で書かれている

もう一つは言葉の読み方です。十字線などの基本パターンについて取引所グループのメディアや証券会社の解説を読むと、「相場転換の可能性」「サインとなる場合がある」といった表現が使われています。どれも言い切ってはいません。

私はこの控えめな言い回しを、頭の中で勝手に「こうなる」に書き換えていました。解説が慎重に残していた余白を、自分で消してしまっていたわけです。

四本値と実体・ヒゲの見方

では、1本のローソク足をもう一度分解してみます。日本取引所グループの初心者向け解説では、始値と終値を四角で表し、高値を上ヒゲ、安値を下ヒゲで表すこと、そして終値が始値より高い場合は白い四角、安い場合は黒い四角になり、始値と終値が同値の場合は四角が形成されないことが説明されています。

陽線・陰線・十字線を模型で示す様子
  • 実体:始値と終値のあいだの四角。陽線なら下端が始値で上端が終値、陰線なら上端が始値で下端が終値です。
  • 上ヒゲ:実体の上端から、その期間の高値まで伸びる線です。
  • 下ヒゲ:実体の下端から、その期間の安値まで伸びる線です。
  • :白か黒かで、終値が始値より高かったか安かったかを表します。

私は毎朝20銘柄ほどのチャートを眺めてから講座の準備をしますが、そのときも1本を読む順番はほぼ決まっています。まず色を見て、実体の上端と下端がそれぞれ始値・終値のどちらなのかを確かめます。次にヒゲの先で高値と安値を読み、最後に実体とヒゲの長さを見比べます。色を先に確かめないと、実体の上端を終値だと思い込んで読み違えやすいからです。

数字を当てはめたときの見方

形と価格の対応は、数字を当てはめるとはっきりします。ここでは説明のために私が作った仮の数字で、陽線・陰線・十字線を1本ずつ並べました。

仮の四本値とローソク足各部分の値幅(単位:円)
種類 始値 高値 安値 終値 実体の幅 上ヒゲ 下ヒゲ
陽線 1,000 1,090 980 1,050 50 40 20
陰線 1,050 1,060 960 1,000 50 10 40
十字線 1,000 1,040 960 1,000 0 40 40

値幅は次のように計算しています。陽線は実体の上端が終値なので、上ヒゲは高値から終値を引いた値、下ヒゲは始値から安値を引いた値です。陰線は上端が始値になるため、上ヒゲは高値から始値を、下ヒゲは終値から安値を引きます。

表を見ると、陽線と陰線は実体の幅が同じでも、陽線は上ヒゲのほうが長く、陰線は下ヒゲのほうが長くなっています。十字線は始値と終値が同じなので実体の幅がなく、上下にヒゲだけが伸びます。四本値が決まれば1本の形は決まりますが、逆に形から読み取れるのはこの4つの価格までだ、という点は覚えておきましょう。

基本パターンの見方

東証マネ部!のローソク足解説では、実体の長さや上下のヒゲの長さの組み合わせによって、次のような基本パターンが紹介されています。東証マネ部!は、日本取引所グループが2016年12月8日に開設した資産形成の啓もうメディアです。

  • 大陽線・小陽線:陽線のうち、実体が長いものと短いもの
  • 大陰線・小陰線:陰線のうち、実体が長いものと短いもの
  • 上影陽線・上影陰線:上ヒゲが長く伸びた陽線と陰線
  • 下影陽線・下影陰線:下ヒゲが長く伸びた陽線と陰線
  • 十字線:寄付き(始値)と引け値(終値)が同じで、上下にヒゲが出た形

名前は多く見えますが、見ている要素は「色」「実体の長さ」「ヒゲが上下どちらに長いか」の三つです。先ほどの表の十字線は、この一覧の最後の形にあたります。私は名前を先に探すより、この三つを順に言葉にしてから名前に当てはめるほうが、読み違いが減ると感じています。名前はあくまで、形を人と共有するための目印だと考えています。

十字線の見方と、うまくいかない例

十字線について、三菱UFJ eスマート証券の解説では、始値と終値がほぼ同じローソク足で、買いと売りの勢力が拮抗している状態を示すとされています。そのうえで、高値圏や安値圏で出現した場合は、それまでの傾向が転換するサインとなる場合がある、という書き方です。

この説明をよく読むと、条件が二つ重なっています。一つは十字線という形であること、もう一つは高値圏・安値圏という「出た位置」です。そして結論は「場合がある」。形と位置の両方がそろったうえで、なお可能性の話として書かれているわけです。高値圏か安値圏かは1本だけでは決まらず、前後の足を並べて初めて見えてくる情報でもあります。

では反例を示します。下げが続いたあとの安値圏で十字線が出て、「そろそろ流れが変わるか」と見えたとします。ところが次の足で大きな陰線が出て、安値をさらに切り下げていく。こういう展開も起こりえます。十字線が表しているのはその期間に売りと買いが拮抗していたことまでで、次の期間にどちらへ傾くかは、その1本の中には描かれていないからです。

高値圏でも同じです。転換を思わせる十字線のあとに陽線が続き、高値を更新していくこともあります。私が講座で外したのも、形の名前と「可能性がある」という説明を、そのまま結論に置き換えてしまったからでした。

反例を知ったうえで眺めると、ローソク足1本は予言ではなく四本値の記録として、落ち着いて読みやすくなると私は感じています。そこから何を読み取るかは、みなさん自身がチャートを見比べながら決めていくことです。