「移動平均収束拡散法」。初めて聞くと身構えてしまう名前ですが、これがMACDの日本語訳です。Moving Average Convergence Divergenceの頭文字を取ったもので、名前が示すとおり、移動平均を応用して作られた指標とされています。

では、みなさんに質問です。チャートの下段にMACDを表示したとき、そこには何が描かれていて、それぞれがどんな計算の結果なのか、言葉にできるでしょうか。私の講座でも、ここを飛ばしたまま「クロスしたら買い」だけを覚えてしまう方が少なくありません。今日は表示されるものを一つずつ確かめてから、条件によって見え方がどう変わるかを並べてみます。

MACDという名前が指すものの見方

MACDは、期間の異なる2本の移動平均の差を、1本の線として描いた指標です。使われるのは直近の価格により大きな比重を置く指数平滑移動平均(EMA)で、SMBC日興証券の用語集でも、2つの異なる期間の移動平均の差を1本にした線と、その変化に遅れて動く線の組み合わせとして説明されています。

考案したのはジェラルド・アペルという人物です。Investing.comのMACD解説は1979年の考案と記しており、アペル自身も2005年3月21日刊行の著書で、1970年代後半に考案した指標だと書いています。歴史の長い、年季の入った道具なのですね。

下段に表示される3つの要素の見方

MACDを表示すると、ふつうは線が2本と、ゼロを中心にした棒が並びます。それぞれの正体を表にしておきます。

MACDの表示要素と計算
要素 計算 一般的な設定
MACD線 短期EMA − 長期EMA 12日・26日
シグナル線 MACD線の9日間の移動平均 9日
ヒストグラム MACD線 − シグナル線 —

出典:大和証券 用語集「MACD」/OANDA Learn「MACD」(MACD線・シグナル線)、Investing.com Academy「What Is MACD?」(ヒストグラム)

シグナル線の平均の取り方には注意が要ります。楽天証券のヘルプのように単純移動平均として説明しているページもあれば、指数平滑として扱うページもあります。お使いのチャートツールがどちらで計算しているかは、設定画面か仕様説明で確かめておくと安心です。

ヒストグラムは、2本の線がどれだけ離れているかを棒の高さに置き換えたものです。棒が伸びていれば差が開いており、山や谷を作ってから縮み始めれば、勢いが減速しつつあると読まれます。線の交差は、この棒がゼロをまたぐ瞬間と同じ出来事を、別の形で見ているにすぎません。

2本の線を作る平滑化の見方

EMAの計算は、当日の価格をA、前日のEMAをBとすると、B+α×(A−B)という形で書けます。αは平滑化定数と呼ばれ、2÷(n+1)で求めます。nが期間です。MACD線を作る12日と26日の場合を並べると、次のようになります。

12日と26日の平滑化定数α
期間n α=2÷(n+1)
12日 0.154
26日 0.074

nが小さいほどαは大きくなり、当日の価格が結果に食い込む割合が増えます。12日の線が26日の線より素早く動くのは、この差によるものです。そしてMACD線は速い線から遅い線を引いた値ですから、プラスなら短期の平均が長期の平均を上回っている、マイナスならその逆、と読めます。

交差で読むときとゼロラインで読むときの見方

MACDの読み方としてよく挙がるのは二つです。一つ目は2本の線の交差で、MACD線がシグナル線を下から上に抜けたときを買い、上から下に抜けたときを売りの目安とする見方。二つ目はゼロラインで、MACD線がゼロより上にあれば強気、下にあれば弱気と解釈し、上抜け・下抜けをトレンド継続の合図と見るものです。

同じ画面の同じ線を見ていても、この二つは示しているものが違います。交差が示すのは、MACD線とシグナル線の前後関係です。ゼロラインが示すのは、短期EMAと長期EMAの大小、つまり差の符号です。ここが肝心なところだと思っています。

どちらが先に現れるかは、MACD線の位置や価格の推移によって前後します。そのうえでMACDは、どちらの読み方でも過去の価格だけから計算されるため、価格に対して遅れて現れる指標です。ここは決めつけずに、画面で確かめながら受け取るのがよいと思います。

相場環境で分けて考える見方

では、どんな場面なら素直に見えるのか。条件を二つに分けてみます。

一方向に値が伸びている局面では、ゼロラインでの読み方が値動きの向きと素直に重なって見えることがあります。ただ、これは私が画面を眺めて感じた印象で、必ずそうなるわけではありません。

反対に、横ばいの保ち合いでは、2本の移動平均が何度も絡み合うため交差が頻繁に起き、ダマシが出やすくなります。セブンデータの解説でも、横ばい相場ではクロスが機能しにくいと説明されています。大和証券の用語集も、ボックス相場には弱いと書いています。2本の線が近づいて交差する過程は、ゴールデンクロスの見方で扱った内容とも重なりますので、合わせて眺めてみてください。

もう一つ、環境にかかわらず付いて回る性質があります。MACDの計算に入るのは過去の価格だけで、未来の値は一つも使われていません。だから価格が先に動き、線が後から追う。遅行指標と呼ばれるゆえんです。

うまくいかない例と、私が足している手順の見方

私の失敗を一つ。講座で、ある銘柄のMACDがシグナル線を上抜けた場面を映して「この形は上がります」と言い切ったことがあります。翌週、その銘柄は逆方向に動きました。あとから見れば、価格は数週間ほとんど同じ幅を行き来していて、上抜けの前後に下抜けも起きていた。交差という出来事だけを切り取り、それがどんな地形の上で起きたかを見ていなかったわけです。それ以来、反例を必ず一つ添えるようにしています。

いまは交差を見つけたら、三つ確かめます。直前の数十本で価格が方向を持っていたか、同じ幅を往復していたか。MACD線がゼロのどちら側にいるか。似た交差が少し前にも起きていなかったか。これで外れが消えるわけではありませんが、横ばいの中の交差を、そうと分かったうえで見られるようにはなります。

複数の解説が共通して書いているのも、MACDを単独で置かないという一点です。遅れがあり、ダマシもある。だから他の指標や分析と組み合わせる前提の道具として扱う、ということですね。数値そのものを答えにしない構えは、RSIとは何を見ている線かで書いたことと重なります。

最後に反例をもう一つ。ゼロラインの上抜けはトレンド継続の合図とされますが、抜けた直後に下げへ転じ、再びゼロの下へ戻る場合もあります。MACDが示しているのは、2本の平均の差が広がったか縮んだか、それだけです。そこから先は、線ではなく値動きそのものを見て決めることになります。