「先生、上のバンドに触れたら売り、下のバンドに触れたら買い、という理解で合っていますか」——週末に受講生から届いたメールに、この一文がありました。講座の質疑でも、ボリンジャーバンドの話になると毎回のように似た質問が出ます。私もかつて同じ理解で注文を出していたので、一行で「違います」と返す気になれませんでした。今日は、私がその理解でどこを外したのかをたどりながら、この線の見方を整理していきます。

上のバンドに触れたら反転すると思っていた頃の私の見方

自分の口座でこの指標を表示し始めた頃の私は、上側のバンドに価格が触れた銘柄を売り、下側に触れた銘柄を買っていました。値幅の狭い動きを続けている銘柄では、実際に中心線のほうへ戻ってくる場面があり、しばらくは使える線を見つけたつもりでいました。

崩れたのは、上昇が続いている銘柄で同じ操作をしたときです。上側バンドに触れたところで手放したあとも価格は上へ伸び、バンドの外に終値がついた日の翌日に、さらに上がる。買い直して、また同じところで売る。教科書どおりに動かず損をした例は、私の口座に山ほどあります。以前、講座で「この形は上がる」と言い切って翌週に逆へ動いたこともあり、それ以来、私は反例を先に挙げるようにしています。

私が見落としていたσ幅の見方

当時の私は「触れた」という出来事だけを見て、その幅がどうやって決まっているかを見ていませんでした。バンドの幅は、対象期間の価格のばらつきを、移動平均からの距離として表したものです。ばらつきが大きくなれば幅は広がり、小さくなれば狭まります。つまり幅は変動の度合いを写した線で、それ自体が上がる・下がるという方向を示すものではありません。

そう考えると、上側バンドへの接触は「価格が移動平均から設定した標準偏差幅だけ離れたことを示す」という記述にすぎません。次にどちらへ向かうかは、幅の広がり方には書かれていない。ここが、私が長いあいだ飛ばしていたところでした。

中心線と幅の組み立ての見方

ボリンジャーバンドは、移動平均を中心線に置き、その上下へ標準偏差の倍数を加減して描きます。よく見かける設定例は20期間の移動平均と±2σですが、これは既定値の一例で、期間や倍率は用途に応じて変えられます。証券会社によるボリンジャーバンドの解説でも、期間と偏差倍率は調整できる項目として扱われています。

ですから、他の人のチャートと自分のチャートで、バンドの位置が違って見えることがあります。比べる前に、中心線の期間と、何σの線を表示しているかを確かめる。地味な作業ですが、ここを揃えないと話が噛み合いません。

±1σ・±2σ・±3σという数字の見方

σの倍率を変えると、中心線からの距離が変わります。倍率と一緒に紹介されることの多い割合を並べておきます。

σ倍率と、正規分布を前提とした範囲内の割合の目安
線 中心線からの距離 範囲内の割合の目安
±1σ 標準偏差の1倍 約68.3%
±2σ 標準偏差の2倍 約95.4%
±3σ 標準偏差の3倍 約99.7%

割合は正規分布を前提とした目安。計算式と併せて証券会社のテクニカル分析解説を参照。

気をつけたいのは、株価が常にこの割合でバンドの内側に収まると約束されているわけではない点です。価格の分布は正規分布そのものではないため、実際の株価が常にこの割合で収まるとは限りません。数字の目安を単独で置かない、という話はRSIの70と30という目安の読み方でも書きました。落とし穴の形は同じです。

相場環境と分けて考えるバンドの見方

幅が狭いときは、その期間の値動きが静かだったことを示します。そのあと大きく動く場面はありますが、上か下かまでは幅からは決まりません。

狭い値幅で行き来している局面と、方向が出ている局面は、分けて確認します。方向が出ている局面では、価格が上側または下側のバンドに沿って動き続けることがあり、考案者側が公開しているバンドのルールでは、バンドの外で終値がついた場合、当初は反転ではなく継続を示すものとみる、と説明されています。触れたら戻る、の逆です。私が損を重ねたのは、この二つの局面を一緒に扱っていたからでした。

接触だけで決めないための検証の見方

では、どう確かめるか。私が講座で受講生と一緒に組む手順は、だいたい次の順番です。銘柄や期間はお手元のものに置き換えてください。

  1. 対象銘柄、時間足、検証する期間、中心線の期間とσ倍率を先に書き出す。
  2. 接触後に何を売買の判断とするか(終値がバンドの内側へ戻った、中心線を割った、など)を、後から変えられない形で決める。
  3. 接触だけを条件にしたルールと、追加条件を置いたルールを、同じ銘柄・同じ期間で並べて記録する。
  4. 結果を相場環境ごとに分けて集計する。狭い値幅の期間と、方向が出ていた期間を混ぜない。
  5. 条件を作った期間とは別の期間のデータにも同じルールを当てて、結果を見比べる。

バックテストの手順をまとめた解説では、投資仮説とルールを先に指定すること、成績とリスクを追いながら定期的に組み替えること、ローリングやウォークフォワードのやり方、先読みや生存者バイアスへの注意が挙げられています。過去のチャートを眺めてから条件を足していくと、当たるように作れてしまう。ここが大事なところです。

もうひとつ。こうした検証は後知恵を使って過去の運用を仮に再現したもので、実際に判断を下したあとで測った成績とは別のものです。将来の結果を示すものでもありません。接触した日を記録に残すときは、その日の値動きと出来高も横に書き添えておくと、あとで見返すときの手がかりが増えます。並べ方は、出来高の急増・急減を確かめる順番で紹介したものがそのまま使えます。

バンドは、値動きのばらつきを幅として描いた線です。触れたという事実は、方向の答えではない。ここだけは覚えておきましょう。