まずは、「MACDとは結局なにを計算している線なのか」という問いから始めましょう。チャートの下段にMACDを表示させてみると、曲がりくねった線が2本と、上下に伸びる棒の列が並びます。どこから読めばいいのか、最初は戸惑うところです。

この問いは、順番としてよい問いだと思います。クロスが出たらどうするか、という話の前に、何を計算した結果がそこに描かれているのかを押さえておくと、後の話が自然につながっていきます。逆の順番で覚えると、線の動きが何を意味しているのか分からないまま、形だけを追うことになります。今回はサインの話をいったん脇に置いて、MACDという表示そのものを分解していきましょう。

MACDとは何の差を見ている指標かの見方

MACDは「Moving Average Convergence/Divergence」の略で、日本語では移動平均収束拡散手法などと訳されます。名前のなかに移動平均という言葉が入っているとおり、期間の異なる移動平均の差を使って、トレンドの方向や勢いを観察するための指標です。主にトレンド分析に使われるモメンタム指標として説明されています(Fidelityの指標ガイド)。

ここで一度、移動平均線そのものを思い出してください。期間の短い平均は直近の値動きに早く反応し、期間の長い平均はゆっくり動きます。ですから2本を同じ画面に引くと、ある場面では間隔が広がり、別の場面では縮まって近づきます。この広がることを拡散、縮まることを収束と呼びます。MACDは、その間隔のほうをチャートの下段に1本の線として取り出した表示だと考えると、見通しがよくなります。

言い換えれば、MACDを見ているとき、私たちは株価そのものを見ているわけではありません。2本の平均の距離という、一段加工された数字を見ています。ここが大事なところです。価格の動きとMACDの動きがずれて見えるのは、そもそも別のものを描いているからです。

チャートに表示される3つの要素の見方

では、画面の中身を3つに分けます。

MACDとして表示される3つの要素
表示要素 計算のしかた ゼロより上にあるとき
MACDライン 短期EMA − 長期EMA 短期EMAが長期EMAより上
シグナルライン MACDラインのEMA MACDラインの平均が上側にある
ヒストグラム(棒) MACDライン − シグナルライン MACDラインがシグナルラインより上

計算式と標準設定はTradingViewのMACD解説(2025年5月21日更新)より。

標準的な設定例として、短期EMAは12期間、長期EMAは26期間、シグナルラインは9期間、計算に使う価格は終値が初期設定とされています。ただし、この12・26・9という数字は固定の必須値ではありません。設定画面から変更できますし、期間を変えれば線の形も棒の大きさも変わります。教科書に出てくる数字が唯一の正解というわけではない、と覚えておくと、他の人の画面と自分の画面が違っていても戸惑わずにすみます。

数字で一度なぞってみましょう。ある銘柄の短期EMAが1,020円、長期EMAが1,000円だとします。このときMACDラインは20円です。さらにシグナルラインが12円だとすれば、ヒストグラムは8円の高さの棒として立ちます。ここで挙げた数字は、計算の順番を見せるために私が置いた仮のものです。

3つの関係を整えておくと、こうなります。価格から2本のEMAをつくり、その差でMACDラインをつくり、さらにその平均でシグナルラインをつくり、2本の差を棒にする。下に向かうほど、元の価格から遠い計算結果になっていきます。

ゼロラインとの位置から2本の平均を読む見方

MACDラインには、ゼロという基準線が引かれています。短期EMAが長期EMAより上にあればMACDラインはゼロより上、下にあればゼロより下になります。差を計算した値ですから、2本がぴったり同じ値のときがゼロです。初心者のみなさんには、まずこの対応だけを覚えていただきたいところです。

そう考えると、MACDラインがゼロをまたぐという出来事は、価格チャート側で2本の移動平均の上下が入れ替わったことの言い換えにすぎません。その入れ替わりが起きるまでの過程そのものは、株価チャートで2本の線が交差するまでを3つの形に分けた回で扱いました。下段で一点として見えるものが、上段では時間をかけた近づき方として見えます。

棒のほうは、MACDラインとシグナルラインの差です。ゼロより上なら、MACDラインがシグナルラインより上にあるということ。ゼロより下ならその逆です。そして棒の大きさは、2本がどれだけ離れているかを表します。棒が短くなっていく場面は、2本が近づいている場面だと読めます。

条件別に比べるクロスの見方

方向がはっきり出ている場面では、ゼロラインやシグナルラインとの位置と交差から、方向や勢いを観察できます。MACDラインがシグナルラインを下から上へ抜ける動きは強気方向、上から下へ抜ける動きは弱気方向の可能性を示すものとして説明されます。解説書で最初に出てくるのも、たいていこの読み方です。

ただ、これは確定した売買判断ではありません。同じ交差が、条件の違う相場ではまったく違う意味合いに見えます。方向感の乏しいレンジ相場では、MACDラインがシグナルラインを何度も行き来し、だましのような交差が立て続けに出ることがあります。差を計算している線ですから、2本の平均が近い場所でもつれていれば、上下の入れ替わりも頻繁になります。

ですから私は、交差という1点だけを取り出さずに、条件をそろえて比べるようにしています。そのときゼロラインのどちら側にいたか、棒は伸びていたか縮んでいたか、価格のほうに方向が出ていたか。同じ形の交差を、トレンドの場面とレンジの場面から1つずつ並べて見比べると、見え方の差がよく分かります。

うまくいかない例の見方

私自身の話を一つ。かつて講座で「この形は上がる」と言い切って、翌週にきれいに逆へ動いたことがあります。あのとき私が見ていたのは交差の1点だけで、相場にそもそも方向が出ていたかどうかを確かめていませんでした。以来、反例を必ず一つ添えるようにしています。自分の口座でも、教科書どおりに動かずに損をした例は山ほどあります。

仕組みの側にも、うまくいかない理由があります。MACDは移動平均をもとにしていますから、計算に使うのは過去の価格です。つまり、価格の変化に遅れて反応する性質があります。交差が画面に見えた時点では、値動きのほうが先に進んでいることもある、ということです。

もう一つ。MACDには値幅の上限・下限が定められていません。ですから、数値の水準そのものを見て買われ過ぎ・売られ過ぎを判定する使い方には、そのまま向きません。RSIが何を見ている線かを計算の考え方から整理した回と並べてみると、同じ下段に並ぶ指標でも性格がかなり違うことが見えてきます。

具体的な数値を見るときの見方

最後に、数字の扱いについて。MACDの値は、対象の銘柄、日足か週足かという時間軸、そして設定した期間に応じて計算されます。全銘柄・全時間軸に共通する「いまのMACD値」という数字は存在しません。同じ銘柄でも、日足と週足では別の値が出ます。

ですから、具体的な値を話題にするときは、どの銘柄の、どの時間軸の、どの設定かを先に決めてから数えてください。ここを決めずに数字だけを比べると、違うものを比べることになります。

次回の講座では、今回分解した3つの要素を実際のチャートに重ねて、ゼロラインとシグナルラインの位置関係を読み分ける手順を扱います。先に目を通しておきたい方は、移動平均の差という仕組みからシグナル線とゼロラインを読み分けた回をどうぞ。手元の銘柄を一つ決めて、日足にMACDを表示させておいていただけると、話が早く進むと思います。