少し恥ずかしい話から始めます。自分の口座で売買を覚えはじめた頃の私は、チャートの下段にある棒グラフがいつもより高く伸びている銘柄を見つけると、それだけで「何か起きている」と考えて買い注文を出していました。出来高が増えた日は勢いのある日だ、という説明をどこかで読んで、そのまま信じ込んでいたのです。教科書どおりに動かず損をした例は私にも山ほどありますが、この買い方はその代表格でした。棒が伸びた理由を、何ひとつ確かめていなかったからです。

棒の高さだけを見ていた頃の私の見方

当時の私が飛ばしていた手順は、振り返ればとても単純なものでした。出来高という数字が何を数えたものなのか、自分の言葉で説明できていなかったのです。数えている中身がわからないまま高い低いを判断していたので、比べる相手も決まっていませんでした。前日と比べたのか、その銘柄の普段の水準と比べたのか、市場全体の動きと比べたのか。どれでもなく、ただ画面の中で棒が目立っていた、それだけでした。

出来高は何を数えているのかという質問

講座でも最初に出てくる質問です。出来高は、一定期間内に売買が成立した株数の合計を指します。日本取引所グループの株価検索 詳細画面の見方でも、売買高は「その日に売買された株数の合計」と説明されています。日足ならその日の合計、週足ならその週の集計として読むのが基本です。

ここで混ざりやすいのが売買代金です。売買代金は、売買した株価に売買した株数を掛けた金額で、単位も金額になります。同じ画面に並んでいても、出来高は取引の規模を株数で数えたもの、売買代金は同じ取引を金額に直したものです。どちらも株価そのものの高さを示す数字ではありません。ここがポイントです。

チャート画面に並ぶ表示要素の見方

米国証券取引委員会の投資家向けの説明では、株式の過去データに各取引日の始値・終値・高値・安値とともに取引高が含まれるとされています。つまり出来高は、価格とまったく同じ時系列の上に並ぶ表示要素です。

ですからチャートを開いたら、上段でローソク足の四本値と実体・ヒゲの見方を確認したあと、同じ日付の位置にある出来高の棒まで目を下ろす。この上下の往復を、私は受講生に繰り返してもらっています。価格が動いた日に取引の規模がどうだったかは、上段だけでは見えません。

市場全体の数字も同じ画面で確認できます。東証の市場概況は市場区分別に出来高、売買代金、時価総額、値上がり・値下がり・変わらずの銘柄数を並べる構成で、単位は出来高が百万株、売買代金が百万円です。

条件別に比べる出来高の見方

比較には基準が要ります。出来高が多いか少ないかは、その銘柄の平常時の水準や直近数日・数週間の平均と並べてはじめて言えることです。東証は個別銘柄の月間の四本値・売買高・売買代金や日次のデータを公表しているので、比較用の数字は自分で取りに行けます。基準ができたら、価格の動きと組み合わせて眺めます。

価格の方向と出来高の組み合わせで、観察できることと言えないこと
組み合わせ 観察できる事実 出来高だけでは言えないこと
株価上昇・出来高増加 上昇した期間に多くの売買が成立した 上昇が続くかどうか
株価下落・出来高増加 下落した期間の取引規模が大きかった 底打ちか、さらに下げるか
株価上昇・出来高減少 平常時より少ない売買で価格が上に動いた 関心が薄いのか、単に参加が少ない日なのか
株価下落・出来高減少 平常時より少ない売買で価格が下に動いた 売りが一巡したのかどうか

テクニカル分析は過去の市場データを用いて投資対象を評価する手法として説明されています(Investor.gov)。

急増・急減の読み方でつまずくところと、うまくいかない例

出来高の急増は、決算の発表、ニュースや材料、株式分割、売買停止の解除など、いくつもの理由で起こり得ます。ですから急増した日だけを取り出して判断を完結させず、価格が動いた方向、その日のローソク足、企業側の情報、そして過去の平均出来高まで照らし合わせる必要があります。急減のほうも同じで、休日の前後、取引時間、その銘柄の流動性、そして集計の範囲が影響します。

集計の範囲は見落としやすいところです。東証の月間相場表では、売買高は売買立会だけでなくToSTNeTや立会外分売を含む合計として扱われます。東京証券取引所日報にも取引区分ごとの欄と合計・日平均の欄があり、日付別に更新されています。手元のチャートの棒と市場統計の数字が合わないとき、片方が間違っているのではなく、数えている範囲が違うだけ、ということがあります。

うまくいかない例も挙げておきます。私が飛びついたあの銘柄は、たしかに出来高が急増し、その日は株価も上がっていました。並びとしては教科書に出てくる形です。それでも翌日から株価は下を向き、出来高のほうは数日で普段の水準に戻っていきました。観察できたのは「価格が動いた日に多くの売買が成立した」という事実までで、その先の方向は出来高が単独で示してくれるものではなかった、というのが私の受け取り方です。

次の講座までの宿題

では、みなさんへの宿題です。まず、ふだん見ている銘柄を一つ選び、直近20日分の出来高を書き出して平均を計算してください。次に、その平均を大きく超えた日を探します。何倍を超えたら急増と呼ぶかの線は、ご自分で決めてかまいません。私は仮に2倍という線を引いてもらっています。

見つかったら、その日の価格が上下どちらに動いたか、ローソク足がどんな形だったかを横に書き添えます。最後に、その日に企業側で何が公表されていたかを調べ、翌日から5日分の出来高が平常時の水準に戻ったかどうかまで追ってください。この4つを並べ終えたとき、棒の高さだけを見ていた頃とは、同じチャートが少し違って見えるはずです。次の講座では、みなさんが書き出した紙を持ち寄って、合わなかった例から先に見ていきましょう。